覚書「彼氏のマストアイテム」

歌詞の内容やテーマにはあまり触れず、音楽的側面や制作裏話に絞って書いていきます。


1.ファンキーファイト/Funky Fight
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Rap.Programming.松永剛寛
Vocal.三好リョウ(三好リョウバンド/ホームラン)
Narration.古賀ゆうと(ネジレインカルチャーアウト)
三好リョウ by the courtecy of オーイェーレコーズ

13曲目の「ソニックウェーヴ」とほぼ同時期に生まれた曲で、アルバムのオープニングナンバーとして、全体の掴みになるようなものと位置づけました。つんく♂さんの作るファンクナンバーのようなものをイメージしていますが、とりわけBerryz工房の「HAPPY! Stand Up!」のような、ワンコードで押すアッパー感を大事にしました。サビ途中の転調はメロを思いついた時点で決まっていたものです。
2015年の4月には三好くんパートのレコーディングが済んでいたのですが、ミックスまで半年も寝かしてしまいました。ミックス時点でアレンジを修正したり、コーラスパートを解釈し直したりと、苦労した曲でしたが、レコーディングでは三好くんからのアイデアも出たりととても楽しい雰囲気でした。
ナレーションの古賀くんパートにはロイエンタールバージョン(「銀河英雄伝説」のキャラクターのモノマネ)もあるのですが、尺に全く合わなかったので不採用になりました(笑)。


2.白すぎる/Too White
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Programming.松永剛寛
A.Guitar.村上亜賢(PIG MARRY)
E.Bass.山本 浩(PIG MARRY)

曲自体は2014年頭に作曲したもので、このアルバムに組み込む為にセリフパートなどを追加しました。
椎名林檎さんの「ギブス」みたいな生々しい激情バラードを、シンセポップとして解釈するという試みをやってみたくて、ストリングスの音色を敢えてシンセにしたりとか、曲の構造をわざと分かりにくくする演出を組み込んだりしました。セリフパートの不穏なコード感がとても気に入っています。
PIG MARRYの2人、とりわけベースの浩は暗くて把握しにくい構造の曲ということで苦労していました(「ムッシュからのオファーだからポップな曲を期待したのにこれかよ!」と言っていました)が、ギターもベースも狙い通りのものが録れて満足です。
歌パートは、最初はもっと太い声で歌っていて、そのテイクでミックスも編集も終えていたのですが、どうしても気に入らなくて、全部破棄してギリギリで録り直しましたが、リテイクの甲斐があったと思います。


3.SSW/Singer Song Writer
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Programming.松永剛寛
「まよれこ!」出張版
脚本・録音/はぐれウシドリ(ほむらんず)
出演/きょう・山岡迷子(ほむらんず)・はぐれウシドリ
音楽/堀本 陸
ほむらんず by the courtecy of 迷われレコード

「ミュージカル」というコンセプトが一聴してわかるものを目指しました。歌詞も「作詞家ではなく脚本家が書いたもの」をイメージしています。
サウンド面では、「明らかに打ち込みの音とわかるオーケストラサウンド」にした(というかなった)わけですが、エイジさんがそこを特に気に入って下さり、「今のDTMerって、リアルなオーケストラとか作るやん?でも、俺はこういうの(リアルではないサウンド)ってめっちゃキュートやと思うねん」と言っていたのが凄く嬉しかったです。
「まよれこ!」パートは僕が流れを提案して、ウシドリさんが脚本にしてくれました。ドラマパートでは堀本陸ちゃんがBGMを担当しましたが、結構リテイクを受けながらやって貰うという、地味に苦労をかけたパートですね。
ドラマパートは、「接吻&ラヴ」と同じ日に一気に編集したんですが、その日はドラマの編集ばかりしてて、アルバム作業なのに音楽やってないような不思議な気分でした(笑)。


4.世界は思い通り/The World Is (Not) As You Like
作詞作曲/松永剛寛・編曲/松永剛寛・パノピカ・エイジ
Vocal&Programming.松永剛寛
Vocal.きょう
E.Guitar.パノピカ・エイジ(ミンカ・パノピカ)

「SSW」に次ぐ、ミュージカル曲です。呼びかけるような頭のセリフなどに、nemoasakura氏のユニット・Belleflerの「Midnight Parade」に影響を受けています。
「クリスマスギフト」や「演奏してる街」と同じ系譜のシャッフルビートの曲で、一度全てアレンジしたのですが、エイジさんのギターが入った時点でリズムを変えたり、音色を削るなど大幅に修正しました。
2014年の冬にミンカ・パノピカのライブを観たときに、エイジさんの柔らかくてキラキラしたギターの魅力に改めて気付いて、この曲のパーティー感に合うと思いオファーしましたが、狙い以上に素晴らしいものになったと思います。特にセリフパート後のソロギターのハーモニーは圧巻!
それと、きょうちゃんの声質がとても可愛くて、この曲のみならずアルバム全体の「アニメっぽさ」を演出できたと思います。
あと、気に入ってる箇所は、セリフパートのオケヒットです。オケヒットというあまり使い所のない音色を上手く使えたので満足しました。


5.はたらく男/A Hard Worker
作詞作曲/松永剛寛・編曲/ブラスタル
Vocal.松永剛寛
E.Guitar.E.Bass&Programming.ブラスタル

少し暴走気味のテンションを表現する為に、アレンジを全てブラスタルに投げたんですが、「好きなようにやってくれ」と言ったら「好きなようにしかできないんで」と返されたので全幅の信頼を置きました。その期待通りに、とても鋭利なサウンドを提供してくれたので満足です。ちなみに、デモではピアノで弾き語っているのですが、そのデモからちゃんと曲想を読み取ってくれたので助かりました。
ボーカルについては、なかなか上手くサウンドと混ざらなかったので、「キラーチューンズ」のときは敬遠した、ボーカルエフェクトをかなりキツく掛けました。ただ、エフェクトを掛ける前提でも「ちゃんと歌おう」とは心掛けました。ちなみに、セリフパートと歌パートでは歪みの掛け方を変えています。


6.大奥ライド/OOOKU
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Programming.松永剛寛
Kabuki.なかがわゆうすけ(a.k.a.ぐちち/caravan)
Eye Catch.敷嶋萌子

このアルバムの中で一番古い曲で、「キラーチューンズ」リリース直後にできていた曲です。ミニマルで硬質なアレンジが、このアルバムの中ではやや違和感になると思い、バランスを取る為にギャグ要素?として、ぐちちの口上を入れました。打ち込み音楽をやっていながら、こういうクラブ系のアレンジは最近ほぼやってないので、自分で逆に新鮮でした。
ぐちちの口上は、当初は「ポポポポポン」みたいな鼓の音などを用意していましたが、さらっと録音された雰囲気が良かったのでほとんど加工せず使っています。
ラストがどうしても次の曲に繋がらなくてかなり思案しましたが、アニメのようなアイキャッチを入れることで解決しました。やっぱりこのアルバムの発想はアニメだなと(笑)


7.もうすぐ素直じゃなくなる/Wanna Be Natural
作詞作曲/松永剛寛・編曲/堀本 陸
Vocal.松永剛寛
Vocal.meina(solfagram)
Guitar&Programming.堀本 陸 

2014年春頃に、女性ボーカルへの提供用として作曲した曲です。
「男女の気持ちの交錯」を表現する為、セリフパートも含めて徹底したユニゾンにしました。2人の登場人物の距離感に対応した位置にパンを置きたかったので、パンニングは随分拘りました。
この曲は意図的に「普通のJ-POP」にしたかったので、陸ちゃんに「トリッキーなアレンジ禁止」という形でオファーしました。何度もリテイクを繰り返して貰ったんですが、特に間奏のピアノソロパートが素晴らしくてキュンとします。
meinaさんの歌声と声質は、今までの僕の作品に参加して頂いた女性ボーカルの方とは持っている空気が違うので、陸ちゃんのアレンジと相まって、今までにない新鮮なものになったと思います。
meinaさんは他の曲でも色々やって頂いたんですが、その為にアルバムの全曲の構成を事前に説明して、立ち位置を理解して貰った上で演じて貰いました。彼女のセリフでは、ラストの「素直に、なりたい」のところが特に気に入ってます。


8.接吻&ラヴ/Kiss And Love
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Programming.松永剛寛
Voice.敷嶋萌子

このアルバムの中で最も悩まなかった曲です(笑)。アイデアはどんどん出るし、編曲もレコーディングも悩みがなく、ひたすら楽しいだけの作業でした。
音ゲー「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」のパロディをやったんですが、その説明の為にエイジさんの前で「スクフェス」をプレイするという謎の場面があったり(笑)。「このハットはゲームのプレイヤーが出してる音なんです」とか。
あと、パロディと言えば、「君に特化型限定兵器」の歌詞の後に、「エヴァンゲリオン」の戦闘BGMのティンパニーのフレーズを引用しています。
敷嶋さんとの芝居のレコーディングはとても新鮮で、プロの声優さんの芝居を目の当たりにできたのも貴重な経験でした。上手い人って、演じたテイクがOKなのかNGなのかの判断が早いというか、僕がOKを出した時って自然と本人もそう感じているんだなあと。


9.あおなみ線/Hello, Shining Days
作詞作曲/松永剛寛・編曲/nemoasakura
Vocal.松永剛寛
Guitar&eE.Bass.Programming. nemoasakura(Heaven's Show Case)
Voice.meina

ピアノ弾き語りとしてライブで披露したこともある曲なんですが、本編中最も「エモい」楽曲なのでnemoさんにお願いしました。
オファーしたときの注文は「ピアノは他の曲で多用しているのでNG。ギター中心でお願いします」だけで、次の連絡では完成品が届きました(笑)。nemoさんの歌ったデモはこのままリリースできるくらいのクオリティでしたね。
歌はとても苦労しました。何度もスタジオで歌だけの練習をして、宅録では難しいのでスタジオレコーディングを行ったんですが、本当に大変で。ミックス段階で、エイジさんが沢山アイデアを出してくれたのでどうにか形になりました。
冒頭の自然音(鳥の鳴き声)は、多分nemoさんの自宅で偶然入った音だと思うんですが、そのまま場面転換に使えると思い、カットするどころかレベルを上げました。
近日別ヴァージョンをリカットEPとしてネットリリースします。


10.音奏で君を想う/The Real Love Song
作詞作曲/松永剛寛・編曲/イシダストン
Vocal.松永剛寛
Piano.イシダストン(よしこストンペア)
イシダストン by the courtecy of きもちレコード

2014年12月頃、スタジオでピアノを弾きながら作曲した曲なんですが、作曲を終えてスタジオから出てきたら、たまたまミックスルームで、よしこストンペアのミックスをやっていて、そのときに「ピアノをイシダさんにお願いしよう!」と思いました。
僕のデモの雰囲気をどこまで残すかということで随分悩まれていたようですが、「構成以外思い切り変えて下さって構いません」と伝えてやって貰いました。ピアノ音源が届いたときは聴いて泣きました。それくらい気に入っています。その分歌録りのプレッシャーにはなりましたけど。
スタジオのお客さんで、自宅でホームパーティー的なピアノのライブをしているご婦人がいるという話をエイジさんがしていて、その提案されたイメージで進めました。自宅で僕とイシダさんが一緒にライブする、みたいな。


11.J-POP
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Programming.松永剛寛

物語の大団円の曲なので、クライマックスに相応しいアッパーで壮大なものを目指しました。複雑なリズムパターンは「けいおん!」のオープニング曲をイメージしたもので、特に、メロが3連符でリズムが2ビートになるサビのアレンジに苦労しました。
一番最後にできた曲で、10月頭にやっとアレンジが完成という、ギリギリまで粘った曲です。
冒頭はリズムトラックやピアノなど、もっと色々な音が入っていましたが、ミックス段階でチャーチオルガンだけになったり、後半のディストーションパートでも、当初のアレンジより音を削ぎ落としています。
転調が多く、メロディの音域が広いので、キーを決めるのに随分悩みました。結局、一番聴かせたいラストの部分を基調にして逆算することで全体のキーを決めましたが、そのせいでAメロBメロは低すぎて苦労しました。
「アリーナで歌っているような」イメージにしたくてミックスの時にエイジさんに色々やって貰いました。所謂宅録作品では、こういうアリーナ感のある音像って滅多に見ない気がします(笑)。
あと、歌詞に過去の曲名やアルバム名、自分の好きなものへのオマージュを沢山忍ばせています。


12.冬すがた/Winter Clothes
作詞作曲/松永剛寛・編曲/松永剛寛・いちは
Vocal&E.Piano.松永剛寛
龍笛.いちは
Voice.meina

2014年に作曲した曲ですが、正直作曲したときのことをあまり覚えてない、自分でも謎の曲です(笑)。
ピアノ弾き語り中心の、平穏なイメージでやりたいとは当初から思っていましたが、和のイメージを付加したくて、いちはさんにオファーしました。
最初にいちはさんとセッションしたのが6月だったんですけど、「平穏を表現する曲だから全て終わった後に最後に録音したい」と思って、ギリギリの10月半ばまで手を付けずにいましたが、スタジオ1回でアレンジとレコーディングまで完了しました。僕のピアノ弾き語りを録音して、それに合わせて龍笛を録音しています。スタジオまでにいちはさんが龍笛のアレンジをしっかり考えてきてくれたのでスムーズにできたのだと思います。
龍笛のイメージは、ちゃんと曲に合わせてアレンジされたものでありつつ、「田舎の祭りのフィールドレコーディング」のようなものを目指しました。参考として、地元島根県の石見神楽の動画を見直したりしました。


13.ソニックウェーヴ/Sonicwave
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Programming.松永剛寛
Voice.戸田ノブヒト(BaaBooFAZ)・吉野なお
つけてみそかけてみそ Licenced by ナカモ株式会社

今回のアルバムコンセプトの叩き台になった曲です。迷われレコードからリリースしたEPと全く同じヴァージョンで、一切弄っていません。
当初は、アルバムのラストとして、壮大なオーケストラアレンジを加味したヴァージョンを作っていましたが、大団円の役割を「J-POP」に譲ったので没になりました。


14.次回予告/Trailer Of The Next
作編曲/松永剛寛
Programming.松永剛寛
Narration.古賀ゆうと

その名の通りの次回予告です。「ファンキーファイト」のフレーズを流用し、リズム隊を改変して使用しています。イメージは、「エヴァ」の次回予告ですね。


15.てのひらの7つ星/Seven Stars In Our Hands
作詞作曲編曲/松永剛寛
Vocal&Programming.松永剛寛

2014年12月24日にサウンドクラウドで発表した曲のミックスをアルバム・ヴァージョンとしてやり直したもので、新録ではありませんが随分変わっています。
一番変わったのは、ヴォーカルにオートチューンをかけたことで、メルヘンチックなオケにオートチューンという、SEKAI NO OWARIみたいなサウンドになりました。
馬の鳴き声は、Berryz工房の「普通、アイドル10年やってられないでしょ⁉︎」のオマージュです。おもちゃの鼓笛隊が遊んでるような間奏と、アウトロに沙糸しろたまの「君に届け」のメロディが登場するところが気に入っています。


16."Jesus bleibet meine Freude (BWV147)
作曲/J.S.Bach
Piano.meina

当初は予告編映像のBGMにする為に録音して貰ったものですが、予告編映像を作る予定自体がなくなった為、アルバムラストにそのまま収録することにしたものです。meinaさんからはテンポ違いの3ヴァージョンを受け取ってその中から最もイメージに合うテンポのものを選びました。
録音はスマホのボイスメモですが、その場で弾いているような雰囲気が良かったので、多少のマスタリングをしたのみで、編集を一切行わずに収録しました。


Jacket Illustration.中川一
Design.松永剛寛

アートワークについては、中川一さんと何度も打ち合わせして、何枚かのイラスト案を提案して貰いました。「彼氏のマストアイテム」というタイトルから「マストアイテムとは何か?」と中川さんが色々考えて送って頂いた原案から、最も答えに近いものを選んでいます。
今回は諸事情で当初オファーしていたデザイナーさんが降りたので、イラスト以外は全部自分でデザインしましたが、キャラクターのみの背景なし画像データを受け取っていたので随分捗りました。各楽曲のキャラクター性を際立たせる為に楽曲毎にアートワークを作るのとか、色々試せて楽しかったです。ちなみに、僕のデザイン作業は全てスマホアプリで行っています。